DBS体験談
私は手術の結果に満足しています。手術を検討されている方には、治療をよく理解した上で、手術に臨んでほしいと思います。

  • M.C.さん/70代/女性/埼玉県
  • 発症時年齢 47歳
  • DBS手術時年齢 58歳

病気が進行すると、立っていられなくなりました。辛くて仕方ありませんでした。

パーキンソン病を発症してから20年以上になります。

初めて異変に気がついたのは食事の時でした。右手がかすかに震えているのです。日がたつにつれて徐々に左手、左足が震え出し、動作も緩慢になってきました。

その翌年、家族も心配し病院へ行くようにと強く勧めるため、大学病院で診察を受けたところ、パーキンソン病と診断されました。ショックでした。病状は年々悪化するばかりで、徐々に薬の効きが悪くなり、そして、薬を飲んで効くまでに1時間以上かかるようになり、その後薬の効果がきれた時に身体の動きが悪くなり、歩行困難となりました。

左足が震え、足の指先に力が入ってしまうため、爪が何度となく剥がれ、更には腰が痛くて立っていられなくなりました。薬をいくら増量しても抗パーキンソン病薬ではコントロール不能となったのです。もう辛くて仕方がなかった頃、当時の主治医である神経内科の先生が手術のことを教えてくれました。良くなるのであれば、と手術を決意しました。主治医も「今が一番良い時期ではないか」と、すぐに都内にある大学病院の脳神経外科の先生へ紹介状を書いてくださいました。

それから主人と紹介状を持って大学病院へ行き、先生からDBS手術の説明を受けました。手術の危険性として、小さな出血や感染が起こることがあると説明を受けましたが、その場で手術の申し込みをしました。

「手術を受けるには今が一番良い時期」と医師からお聞きし、手術を決意しました。

手術の1週間前から入院し、胸のレントゲンや血液検査、尿検査、心電図等の検査を行いました。手術前の悪い状態の時の様子を動画で撮影もしました。そして手術当日。頭にリードを入れる手術が始まり、頭蓋骨に穴を開ける時の音は今でも忘れません。局所麻酔だったため、先生との会話や、両手両足を動かすような動作を行った記憶があります。手術は午前8時15分に開始し、午後2時20分頃に終了しました。その間、家族は控室と廊下でずっと待っていてくれました。手術当日に娘が書いたメモには、『お母さん、緊張している様子もなく、「昨日は怖かったけれど、今日はもう平気」といつもと変わらず明るい。坊主頭が可愛らしい。「がんばってね」と声をかけると「がんばってくるね」とにこやかに皆と握手をして8時15分手術室に入る。・・・』などと書かれてありました。

手術から1週間後に、今度は神経刺激装置を両乳房に入れました。これは全身麻酔で、覚えがありません。気が付いたら、病室にいました。

手術を受ける前の動けなかった辛さに比べたら、どれほど楽になったか・・・。

手術後から口がもつれてしゃべりにくくなる、という予想外の変化がありましたが、振戦(振るえ)やジスキネジアがなくなったため、手術を受ける前の辛さに比べたら、どれほど楽になったかわかりません。薬の量も大分減少しました。術後は3カ月ごとに、手術を受けた大学病院で刺激調整をしてもらっています。最初の数年はよい刺激設定を見つけるためにいろいろ試しましたが、設定が安定してからは、定期的な診察もすぐに終わるようになりました。

手術から10年以上経ちます。今でも口のもつれは相変わらずあるものの、パーキンソン病の仲間と定期的にカラオケに行ったり、近所の仲間と趣味のグランドゴルフをしたりして楽しんでいます。

全てとは言えませんが手術の結果に満足しています。これから手術を受けられる方には、治療についてよく理解した上で手術に臨んで欲しいと思います。

主治医のコメント

 M.C.さんが手術を受けて下さったのは、今からもう10年以上前のことです。当時はまだ脳深部刺激療法は十分に知られておらず、国内での手術症例数もそれほど多くはありませんでした。まだ脳深部刺激療法の効果がどの程度でどんな患者さんに有効なのか未知の部分がかなり残されている状況でした。その中でM.C.さんは、勇気をもって手術に望んで下さいました。術後長い月日が過ぎ、その間に病期は進行しましたが、それでもまだ独歩で外来通院をし、いろいろな趣味を楽しんでおられるとのお話を伺うと本当にこの治療が役に立ってくれたんだなとうれしく思います。

 我々も患者さんから多くのことを学びます。M.C.さんは、薬の副作用によって特殊なジスキネジアが出現していたのをよく記憶しています。このジスキネジアには、かなり強い痛みを伴っており本当に辛そうでした。術後にそれがすっかりなくなり、とても健やかになり表情も活き活きとし、まるで別人のようになったのを覚えています。今も若々しく溌溂と人生を楽しんでおられる姿には病魔も近づけないのかもしれません。

監修:深谷親 先生(日本大学医学部附属板橋病院 脳神経外科)

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