DBS体験談
「辛い思いがDBSを行うことで改善できるのであれば、また将来が明るい方向に向かうのであれば希望を持とう」と家内と話し合いました。

  • DBSを受けられた患者さんのご家族の立場から
    石松さん (ご主人)

夜間のトイレが頻繁で、一時間おきに介助が必要となり、動きが悪いこともあり、睡眠不足でイライラすることもありました。

病院で妻の病名を初めて告げられた際、パーキンソン病の病名は耳にしたことはありましたが全く知識はありませんでした。発病後10年くらいで車椅子生活や寝たきりになると言われましたが、全く信じられませんでした。当時は症状も軽く、日常生活に支障が無かったので治療すれば治るのではないかと思い、あまり深刻に考えなかったのです。

妻のDBSをする前の状況は、全身にジスキネジアが出て日常生活に支障が出ていました。入浴とトイレに介助が必要となっていたので、私が毎日介助していました。特に夜間のトイレが頻繁で、4〜5回と一時間おきに介助が必要となり、動きが悪いこともあり、睡眠不足でイライラすることもありました。

妻がDBSを受ける5年ほど前に、インターネットで脳を刺激する手術療法があることは知っていました。平成27年の3月と7月に、パーキンソン病友の会福岡支部の会報誌(勇気)に地元の大学病院の神経内科の先生と脳神経外科の先生の寄稿文が掲載され、その中で治療のタイミングの重要性を説明されていました。また手術に対しての安全への取り組み、アメリカでの手術実績、DBSの効果が期待できる病状など詳しく説明されており、DBSへ興味を強く持つようになり、インターネット、図書館などで調べました。

先生はどんな些細な質問にも丁寧に答えてくださり、先生への信頼感を強く感じるようになりました。

手術に失敗すれば障害が残るのではないかなど不安が大きく、何を訊ねてよいかもわからない状態でしたが、「わからないこと、疑問に思うことは何度でも聞いてください」と繰り返し、先生から言われたのが大変印象に残りました。親族からは「脳の手術だけは止めとけ」と強く言われ、気持ちの整理がまだできていない時でしたが、先生はどんな些細な質問にも丁寧に答えてくださり、先生への信頼感を強く感じるようになりました。私たち夫婦にとっての最も大きな悩みであったジスキネジアの解消について尋ねると、「大丈夫ほぼ解消します」と言われ、大きな驚きとともに将来への希望となりました。

DBSをやってよかったと思う点:
全身に出ていたジスキネジアがほぼ解消した。
夜中の頻繁なトイレが改善され、動きも改善したことで、介助も必要なくなった。
日常生活が改善され、家事を分担してできるようになった。
ジスキネジアが解消して友達との会食や映画などが楽しめるようになった。
デイケアやイベントなど積極的に参加するようになった。

DBS後について、介助者の立場からみた変化を教えてください。

介助の負担は大幅に減ったと感じています。

何より、夜間のトイレ介助がなくなり、十分な睡眠が取れるようになりました。また、ジスキネジアがなくなったことで炊事ができるようになり、家事の負担が軽くなりました。長時間の外出もできるようになりましたので、今後の目標として、妻と数日泊のゆっくりとした旅行ができればと思っています。

今後、より歩行に不安が無くなればもっと社会に出ていけると思います。また、発声に問題があり、口腔訓練を受けていますが改善する良い方法があればと願っています。

DBSを考えていらっしゃる方にアドバイスやメッセージをお願いします。

周囲の意見、アドバイスに戸惑い、悩み、迷うのは当然のことだと思います。実際に私たちも家族、親族からは反対の意見がありました。私たちが手術を決断する大きな決め手は、自分たちの残りの人生をどう有意義に過ごすかでした。辛い思いがDBSを行うことで改善できるのであれば、また将来が明るい方向に向かうのであれば希望を持とう、と家内と話し合いました。

私たちの幸運は、信頼できる先生たちに巡り合うことができたことです。先生との信頼関係が、私たちの安心感になり、将来の希望を託し、今後の治療の方向性を決める重要なポイントになりました。

私たちも一時、暗いトンネルに迷い込み、出口の見えない不安で辛い時期がありました。DBSですべてが改善されるとは思っていませんが、長いトンネルの出口が見えてきたのは確かです。出口の明かりがはっきりと見え、今後の治療への希望と方向性を決めることができました。

(2016年6月)

主治医のコメント

私が最初に石松さんを拝見した際に、お困りの症状をお聞きしたところ、薬効オフ時間(※1)の症状が辛いことと、ジスキネジア(※2)だとおっしゃっていました。
パーキンソン病がご専門である前医の先生からしっかりとした薬物治療を受けて来られて、その上で、日常生活に支障が大きくなってきたとの事でした。薬物治療を継続しながら、少しずつDBSについてもお話していくようにしました。
その後、当院で行っています、様々な多職種メンバーからDBS適応について評価を受ける「DBS適応評価入院(※3)」にも前向きに取り組まれました。

もちろん外科的な治療法ですので、様々なご不安や、ご心配もあったと思います。しかし、当初から印象深く覚えていますのは、御主人の笑顔と献身的なサポートです。そのおかげで、ご本人の不安などが随分軽減されたのではないかと思います。DBSはもちろん患者さんご本人に対して行う治療ですが、パーキンソン病治療はお一人で付き合うのではなく、ご家族や私達、医療者みんなでサポートしていくものです。そういった意味では、介護される方にとってもメリットがある治療でありたいと願っています。今回ご主人の介護負担が減り、お二人で家事など分担されたりして日々の生活を楽しく送られていると伺い、とても嬉しくなりました。
ぜひこれからも、お二人の共通の趣味である旅行など楽しまれて、充実した毎日をお過ごし頂きたいと思います。

  • ※1 お薬が効いていない時間
  • ※2 身体が勝手にくねくねと動いてしまう状態
  • ※3 約2週間程度入院していただき、パーキンソン病の病歴、診察、服薬状況、認知機能、精神症状の有無やお薬(レボドパ)に対する反応性などを確認します。各専門家がそれら様々な評価を行い、全員が集まってその方のDBSの適応や刺激部位、今後の注意点など最終判断します。

監修:樋口正晃 先生(福岡大学病院 神経内科)

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