パーキンソン病に対する
DBSとFUS

MRガイド下集束超音波治療 (FUS)とは?

FUSは、MRI画像を用いて、神経活動が異常な脳の一部を超音波で破壊することにより症状を改善する治療法 です。破壊する治療としては、もともと高周波凝固術がありましたが、FUSは頭を切開する手術は行わないた め、従来の凝固術に比べて入院期間が短く、身体への負担が少ないことが特徴です。治療の対象となるのは、 以下のような患者さんです。

  • 本態性振戦やパーキンソン病の、薬が効かない「ふるえ」で困っている患者さん
  • パーキンソン病の運動症状や運動合併症のため、生活に不自由を感じている患者さん

いずれも、薬物だけの治療では十分な効果が得られないことに加えて、パーキンソン病の場合はDBSが不適応 の患者さんに限りFUSが適応となります。

FUSの適応条件

薬物治療で十分に効果が得られないすべての患者さんが適応となる訳ではありません。外科治療としてはまず DBSを検討し、DBSが不適用の場合にはFUSを検討しますが、どちらの場合も、手術が適しているかどうかを見極めるため事前に様々な検査を行います。FUSの場合は、頭蓋骨密度比(SDR※)が最も重要な条件となります。SDRが低い(骨密度のばらつきが大きい)と超音波が通りにくく、治療の効果を十分に得られない可能性があります。日本人は比較的このSDRが低いと言われており、現時点で厳密な基準があるわけではありませんが、医師がCT検査などの結果をふまえ適応を判断します。

※SDR=Skull Density Ratio

FUS治療の流れ

図 1 FUSの様子

事前準備として、FUSの超音波を通しやすくするために、髪の毛を全て剃ります。そして、治療用フレームをピンで頭に固定します(図1)。頭が痛くならないよう局所麻酔を使用しますが、動いたり、話したりすることは問題なくできます。その後、フレームとFUSの治療装置を頭に固定した状態でMRIの治療台の上に横になります。

その後、超音波を脳内の目的部位に正確にあてるため、術前・術中のCT画像とMRI画像を用いて位置を確認します。目的部位に超音波があたり温度が上昇すると、その反応として症状の改善が見られるため、MRI画像だけでなく、患者さんの症状の変化も観察しながら進めていきます。治療の最中に、頭痛や吐き気があらわれることがありますが、その場合は薬を使用して症状を和らげます。
FUSの治療自体は3〜4時間ほどで、早ければ翌日には通常の生活に戻ることができます。その前後で数日〜1週間程度の入院が必要ですが、退院後は数回外来を受診し、問題がなければ定期的な通院の必要はありません。これに対し、DBSでは定期的な通院が必要となります。この違いを理解するには、それぞれの治療の特徴を理解する必要があります。

FUSとDBSの違い

FUSとDBSは、まず治療のメカニズムそのものが異なります。DBSは、FUSと違って脳内の組織を破壊するのではなく、電気刺激を与えることで神経の活動を調整し、症状を改善する治療法です。FUSは目的部位を凝固した時点で即時的に効果があらわれ治療が完了しますが、DBSではその都度、症状に合わせて刺激の範囲や強さを調整します。また、FUSは原則として片側のみの治療となりますが、DBSで両側にリードを植込んだ場合は、症状に合わせて片側ずつ別々に刺激を調整します。本態性振戦に関しては、FUSもDBSもほぼ同様の効果があると言われていますが、パーキンソン病に関しては、手術後も症状が進んでいくということも考える必要があります。

  DBS(脳深部刺激療法) FUS(MRガイド下集束超音波)
日本での治療開始 2000 2019
保険適用されている疾患 パーキンソン病、本態性振戦、
ジストニア
パーキンソン病、本態性振戦
両側・片側 両側 片側のみ
調節性
刺激する範囲を調節
×
調整が難しい
治療の特徴 可逆的
脳の組織は破壊されない
不可逆的
脳の組織は破壊される
毛 髪 すべて剃る場合と、必要な部分を
一部だけ剃る場合がある
すべて剃る必要がある
術後の管理 機器の調節のための通院や
電池交換が必要
通院や機器の交換は必要ない
日本国内の実施施設 70施設 10施設

手術の合併症としては、DBSの場合一般的な手術合併症に加えて、異物が体の中に入るため、感染症やデバイス関連のトラブルが起こる可能性があります。また、刺激が意図しない場所に及ぶと、しゃべりにくさや手足のつっぱり感が生じることがありますが、これは刺激の調整で解決できることが多いです。FUSの場合、異物が入らないため、そのようなデバイス関連の合併症はありませんが、狙った部位よりも広い範囲で凝固をしてしまうと周辺の組織も破壊してしまうため、副作用が生じるということがあり得ます。どちらの場合も、まずは主治医の先生に相談し、専門機関を紹介受診して治療を受けることになります。

FUSとDBSの実施施設

現在、国内で治療を受けられる医療機関は、FUSは10施設、DBSは約70施設です(2020年4月30日時点)。
一部の施設では、FUSとDBSのどちらも行っているところもあります。FUSとDBSは、適応となる条件や治療の方法などが異なるため、それぞれの治療について十分理解し、医師と相談して治療法を決定しましょう。

執筆岩室 宏一先生(順天堂大学医学部付属順天堂医院 脳神経外科) 

 

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