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講演会レポート

2016年9月8日(木)、日本メドトロニック株式会社の主催によるパーキンソン病の外科的治療法 「脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation;DBS)」に関するメディアセミナーが開催されました。
パーキンソン病の主な治療法は薬物療法ですが、脳の深部に微弱な電流を流して神経の働きを調整し、ふるえなどの症状を軽減するDBSという治療選択肢もあります。薬物療法だけでは十分に症状をコントロールできない一部の患者さんのQOL向上に寄与しているにも関わらず、DBSについての情報が、パーキンソン病の患者さんやご家族によく知られていないのが現状です。そこで本セミナーでは、順天堂大学医学部神経学講座教授の服部信孝先生にDBSについてご講演いただくとともに、実際にDBSを受けられた患者さんをお迎えして、手術を受けた感想、術後の心身の変化などの体験談を服部先生との対談形式でお伺いしました。

講演会レポート 目次

講演1 「パーキンソン病の最新情報」
順天堂大学医学部神経学講座 教授 服部 信孝 先生

最新の診断基準では、無動を中心として、さらにふるえか筋固縮がある場合をパーキンソン病と診断するとされています。加齢が重要な危険因子であるため、高齢発症の患者さんの増加が予想されており、患者数は2030年までに全世界で3,000万人に達するとも言われています。超高齢社会を迎えた今こそ、パーキンソン病の根治は急務です。

歴史的に見ると、1500年代にレオナルド・ダ・ヴィンチがおそらく最初に振戦を伴うパーキンソン症状の記載をしています。1700年代には、イギリスの外科医ジョン・ハンターがシビアな振戦を伴っていても疲労を訴えないケースを報告しています。そして1817年、ジェームズ・パーキンソンが震顫(しんせん)麻痺の臨床症状を報告、のちにパーキンソン病と命名されました。来年はパーキンソン医師のエッセイが発表されてから、ちょうど200年になります。

ふるえなどの運動症状の前に、便秘、嗅覚障害、睡眠障害などが現れる

パーキンソン病は多因子疾患であり、リスク因子として遺伝子や加齢、環境、生活スタイルが挙げられます。最近、注目されているのはアメリカンフットボールです。モハメド・アリ氏がパーキンソン病であったことはよく知られていますが、ボクシングやアメフト、つまり頭部外傷はパーキンソン病や認知症、筋萎縮性側索硬化症のリスクになりえます。

パーキンソン病になると、振戦や動作緩慢といった特徴的な症状が出る前に、嗅覚障害、便秘、睡眠障害などが現れます。日系アメリカ人を対象としたHonolulu-Asia Aging Studyでは、嗅覚低下、日中過睡眠、便秘、反応時間の低下、遂行機能障害のうち3つ以上があると、数年後にはパーキンソン病を発症することが指摘されています。最近、日本では「腸脳連関現象」といって、腸の動きと脳の病気との関連が注目されており、さまざまなスタディが行われています。

パーキンソン病の振戦、無動、筋固縮などを運動症状、嗅覚障害や便秘、睡眠障害、精神症状、認知機能障害、疲れやすい、手足の痛みなどを非運動症状と言います。運動症状に加え、多彩な非運動症状がみられることがパーキンソン病の特徴です。

薬物療法の限界を補うDBS 運動症状を改善

運動症状は薬物療法によって改善します。現在、L-dopa、ドパミンアゴニストを中心に、様々な薬が使われています。ハネムーン期(早期)は薬物療法で劇的によくなりますが、進行するにつれ薬の効いている時間が短くなり、次の服薬の前に薬効が切れるウェアリング・オフが発現して薬の量が増えていきます。進行期になるとジスキネジア(薬が効きすぎ自分の意思に反して手足が勝手に動く症状)が出てきます。薬の血中濃度のブレを抑え、ウェアリング・オフやジスキネジアを減らすため、胃瘻を作り薬剤を持続的に投与するレボドパ・カルビドパ腸注剤が新たに登場していますが、薬物療法には限界があるのが現状です。 そこで開発されてきたのが脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation;DBS)です。

外科的治療としては1947年、スピーゲルらによって定位脳手術が初めて行われました。運動機能をコントロールする脳深部の領域を温熱凝固により破壊する手法で、日本でも順天堂大学神経学講座の初代教授である楢林博太郎先生が50年間にわたり、4,000例以上の定位脳手術を行っています。

その後、細胞に回復不可能なダメージを与えるのではなく、電極を脳に埋め込み電気刺激を与える可逆的な治療法として、1987年にDBSが登場しました。日本では2000年に健康保険が適用されています。順天堂大学では2006年4月からDBS治療を行っており、現在では日本で一、二を争う症例数を誇っています。

DBSはすべての患者さんに適応となるわけではありません。薬によく反応する人には非常に有効な治療法であり、振戦などの運動症状に効果を発揮します。症状の日内変動の幅が小さくなるため、薬を飲む量・回数が減る、ジスキネジアを改善するといった効果も期待できます。薬は約半分まで減量することが可能です。薬の減量を通じて、非運動症状に対して有効性を示すこともあります。

iPS治療の研究も進行中 複数の治療を組み合わせることで、パーキンソン病になっても元気に暮らせる時代に

現在、iPS細胞から作った神経細胞を人間の脳に移植するiPS治療の研究が進んでいます。おそらく若年発症で、DBSと同じく薬に反応がよい人が適応になるだろうと思います。将来的には遺伝子治療やiPS治療とDBSを組み合わせ、より効果的なパーキンソン病治療が確立されていくのが理想です。

パーキンソン病患者さんにとって情緒の安定、病気の認識と医療支援、そして選択できる治療があることは大切ですが、DBSのことを知らない患者さんがたくさんいます。残念ながら、DBSの説明ができないために、『数年後には寝たきりになってしまう』というような説明をする医師もいるのが現状です。

今は的確な判断でよりよい治療オプションを見出していけば、パーキンソン病になっても10年、15年、20年と元気に暮らせる時代になっています。メディアの方々もパーキンソン病やDBSについて正しい知識、情報を広めてください。快適なケアのために、我々のようなサポーターは患者さんに共感を抱くこと、患者さんには希望を与えることが大切です。

対談 「私らしい人生を取り戻すまで」
服部 信孝 先生 × 患者様 (K.I.様)

【服部】パーキンソン病を発症されたのはいつですか?

【K.I.】今から14年前、38歳のときです。最初はすくみ足のような症状でした。前につんのめるような歩き方になって、自分では 止まれない。どうしてこんな状態になったのかわからず、いろいろな病院を回り、ほぼ1年たったところで脳神経内科に行き、そこで初めてパーキンソン病と診断されました。


【服部】診断は地元の病院で?

【K.I.】はい。静岡の病院です。それで薬を飲み始めましたが、専門がアルツハイマーの先生だったこともあり、紹介状を書いて もらって、順天堂大学でセカンドオピニオンを受けました。その後、仕事の関係で東京に引っ越したのを機に順天堂の 水野(美邦)先生に診ていただくようになりました。

DBSで薬による体調の変動、つらさが激減 1日中無理なく動けるように

【服部】手術を考えるようになったきっかけは?

【K.I.】東京都主催の服部先生の講演会で、手術を受けた方の映像を見て驚きました。こんなに効くならぜひお願いしたいと思い、手術を受けたのが2013年5月です。


【服部】DBSを受けた後、薬の量は減りましたか?

【K.I.】飲む回数も分量も、半分近くまで減りました。前は3〜4時間ごと、1回3〜4錠でしたが、今は1日3回、2錠ずつぐらいです。薬が切れかかったときの何とも言えない体の重さ、つらさも全くなくなり、非常に楽になりました。


【服部】症状の変動を谷に例えると、谷底が深ければ深いほど不快な気分になりますが、DBSはそれを底上げしてくれる。 症状の変動の上下の幅が減るので、変動感がかなり抑えられます。L-dopaという薬は半減期が1時間くらいしかなく、1時間置きに飲む患者さんもいます。(薬の効果がきれてしまい、)オフの症状に陥り、全く動けなくなって、救急車で 運ばれるようなケースも珍しくありません。

【K.I.】私はそこまでのことはありませんでしたし、薬を飲むようになってからの症状の変動は手術でなくなりました。本当に受けてよかったと思っています。


【服部】DBSを受けた後、生活は変わりましたか?

【K.I.】変わりました。前は朝起きてから薬を飲んでしばらくたつまで、体がろくに動かなかった。今は1日中無理なく動けます。多少の体調の変動はありますが、以前に比べると半分以下の変動だと思います。


【服部】金属が入っていることで、何か不都合はありますか?

【K.I.】特にありません。見た目も、よくよく見ると頭に筋が入っているのがわかるぐらいです。心電図をとるとき(スイッチを 一時的に)切らなければなりませんが、普段は入っていることを忘れています。

体調が安定して何事にも前向きに
趣味兼リハビリのアルゼンチンタンゴでプライベートも楽しく

【服部】 将来的な不安はありますか?

【K.I.】 DBSに関しては何も心配していません。病気に関しては、なっちまったものはもう仕方がない(笑)。病気だ、病気だと言わないような生活を理想として頑張っていますが、最近は趣味のアルゼンチンタンゴでも、病気のことは言わない限り、周りの人たちにわからないようです。理想に近づいてきて、うれしいです。


【服部】 定年は何歳ですか?

【K.I.】 65歳。あと10年弱です。


【服部】 余裕ですね。

【K.I.】 DBSを受けてここまでよい体調に戻していただいたので、仕事もプライベートも、 できる限り元気よく暮らしていきたいと思っています。


【服部】 アルゼンチンタンゴはいつから?

【K.I.】 この病気は音楽に合わせ足を動かすのが良いということで、1年半前に始めました。週に2回は通うようにしています。


【服部】 どんな魅力がありますか?

【K.I.】 アルゼンチンタンゴは、男性が女性に「踊りませんか」と声をかけ、男性が女性をリードして踊ります。曲はその場で初めて聞くような曲ばかりで、即興で1歩ずつステップを踏んで踊らなくてはなりません。パーキンソン病患者にとって苦手な項目がたくさんつまったダンスなんですね。だからリハビリに良いと思って始めましたが、今ではもう楽しいばかりです。


【服部】 女性に声をかけて、断られることもある?

【K.I.】 ありますよ(笑)。ちょっと疲れたとか、お手洗いに行くところだとか言われて。でも、めげずに楽しい時間を過ごすようにしています。


【服部】 めげずに前向きに楽しんでおられる。この病気は前向きであることがとても大切です。

【K.I.】 前向きでいられるのもDBSのおかげです。自分らしい生活を取り戻すことができますので、まだまだ活動したい、活動しなければいけないパーキンソン病の患者さんには、ぜひ私のように手術を受けて、元気になってほしいと思います。

講演2 「脳深部刺激療法について」
日本メドトロニック株式会社 ニューロモデュレーション事業部

脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation;DBS)は、脳深部に電極を留置し、植込み型神経刺激装置を用いて電気刺激を与え、薬物療法で十分に効果が得られないパーキンソン病の振戦、ジストニアなどを軽減する治療法です。25年以上の歴史を持ち、世界では14万人以上がこの治療を受けています。

日本では2000年に保険適用になり、これまでに7,000人以上の方がDBSを受けています。手術を行っている医療機関は70施設以上に上りますが、患者さんやご家族の認知度は低いのが現状で、インターネット調査では、薬物療法を知っている方が9割以上であるのに対し、DBSを知っている方は2割弱との結果も出ています。また、今年5月、長野県パーキンソン病友の会主催の市民公開講座で実施した調査によると、「DBSについてよく知っている」という回答はわずか5%、「名前は聞いたことがある程度」「全く知らない」が9割近くを占めるという結果でした

弊社ではより多くの患者さん及びご家族に、DBSについて知っていただくことを目的として、DBSに関する総合情報ウェブサイトをオープンしました。パーキンソン病やDBSの基本情報のほか、実際にDBSを受けられた患者さんにアドバイスをいただいて、さまざまなコンテンツを設けました。ドクターインタビュー、DBSの効果を見ていただける動画、患者さんやご家族の体験談のほかDBSおすすめ度セルフチェック、DBS実施病院検索などのツールもご用意しています。

弊社では、今後ともパーキンソン病ならびにDBSに関する最新情報を発信することで、より自由に、より前向きに「私らしく生きる」ことを願う患者さんと、そのご家族をサポートしていきたいと考えています。

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