選択肢が広がる「パーキンソン病」の治療
正しく知り、最新情報を理解しましょう
3月31日、名古屋で「パーキンソン病 患者さんと家族のための公開講座」が開かれました。
症状や治療法についての最新情報の講演の後には、患者さんからの質問に答えるコーナーもあり、参加者は熱心に聞き入っていました。その一部を紹介します。
名古屋大学医学部 保健学科 准教授 座長 平山正昭先生 |
独立行政法人 国立病院機構 名古屋医療センター 脳神経外科 手術部長 講演 梶田泰一先生 |
パーキンソン病は神経伝達物質のドパミンが不足し、脳からの指令がうまく伝わらなくなったために起こる病気。ドパミンを作っている中脳の黒質という部分の変性が原因だといわれています。ドパミンは加齢とともに減っていきますが、その減少が平均よりも早く起こってしまう病気なのです。
代表的な運動症状としては、手足のふるえ(振戦)、筋肉が固くなる(筋強剛・固縮)、動きが遅い、バランスが取れない・転びやすい、の4つあり、片側から現れるのも特徴です。また嗅覚障害、睡眠障害、便秘、疲れやすい、気分が落ち込むなどの非運動症状もみられます。
頭部のCTやMRIなどの一般的な検査では異常が見つかりにくいため、「ドパミントランスポーターシンチグラフィ」や「MIBG心筋シンチグラフィ」などの画像診断で、ドパミンが減少しているかどうかを確かめます。
基本は薬物療法です。ドパミンを補う薬、ドパミンを受け取る部分を活性化する薬など種類はたくさんあり、症状の出方を見ながら組み合わせていきます。薬物の継続的な効果を得るために、胃ろうを作ってチューブから直接薬を常に注入する方法(経腸療法)や、1日1回の服用ですむ薬、貼り付けるタイプのものなどいろいろな工夫もされています
初期のパーキンソン病には薬がとてもよく効きます。しかし、長く服薬を続けていると、7割くらいの人が効いている時間が短くなっていきます。薬が効いている「オン」の状態と、薬を飲んでも効き目がない「オフ」との差が激しくなり、一日に何度も「オン」と「オフ」を繰り返してしまうウェアリングオフや、勝手に体がくねくねと動いてしまうジスキネジアという症状が出てくることもあります。
パーキンソン病の外科的治療として注目されているのが、脳のペースメーカーといわれる脳深部刺激療法(DBS)。脳の奥深いところに電極を入れ、胸の辺りに電気を発信する装置を埋め込んで、電気刺激で運動症状を改善する療法です。日本では2000年にふるえに対して健康保険の適応になり、2013年にはふるえ以外のパーキンソン病の運動障害にも保険が適応になりました。
DBSの効果としては、「オフ」の状態を、電気刺激によって薬の効果がある「オン」の状態にもち上げることで、運動症状の日内変動を減らすことができます。また十分な服薬ができない患者さんに対して、電気刺激で「オン」の状態にすることで薬の不足分を補ったり、薬を減量できたりするメリットもあります。パーキンソン病そのものが治るわけではありませんが、ふるえを止めるにはとても効果的な方法です。
DBS手術を受けるには最適なタイミングがあり、その一つが服薬を始めて7〜8年たったころ。ウェアリングオフやジスキネジアなどのいろいろな症状が重なるようになって、日常生活に困った、と感じることが多くなってきたら、DBSを検討します。「調子のいい状態を取り戻したい」「いずれは手術を」と考えているなら、主治医に相談してみてください。
高齢社会になり、パーキンソン病にかかる人は増えています。でも悲観しすぎないでください。治療の選択肢は確実に広がっています。患者さんはもちろん、家族も一緒に最新の情報を理解して、症状と上手に付き合いながら、どんどん外に出て、前向きになってください。
熱心に耳を傾ける参加者。メモをとる姿も多くありました
Q1側弯や首の傾きの症状があり、肩や首の凝りに 悩まされています。対処法はありますか。
【平山先生】パーキンソン病特有の症状の場合、自然に体が前や横に曲ってしまうのですが、夜寝ている姿はまっすぐです。骨そのものが曲がってしまっている側弯なら、整形外科で行うような手術が必要です。側弯のような傾きがパーキンソン病の薬の影響だとしたら、薬の調整で改善できますから、レントゲンを撮って確かめましょう。肩凝りを訴える人は多くいます。薬が効いている時には凝りを感じないなら、主治医に相談して薬の調整を考えてもらってください。
Q2たくさんある薬の中から、どうやって自分に合う薬を選んだらいいのでしょう。
【平山先生】初期は一種類の薬を少量服用するだけでよく効きますが、そのうち効きが悪くなり、補助薬が必要になります。便秘、睡眠障害、立ち眩み、発汗などの非運動症状に対処するために、知らないうちに薬が増えてしまうこともよくあります。一人ひとりの症状に合わせ、バランスを見ながら組み合わせますので、主治医とよく相談しましょう。
Q373歳の母が発症して15年になります。DBSの対象になりますか。
【梶田先生】DBSは実年齢ではなく健康年齢が肝心。いろいろな検査をして適応を調べます。行うタイミングは一人ひとり異なりますが、平均すると発症後15年で行う人が多いですね。将来、自立した生活を送りたいと思っているなら、早い方がいいと考えています。75歳以上の人には慎重に相談をしていますが、79歳の人に行ったこともあります。